南の小言

100年健康を作るPTの日常

介護職員を更に苦しめるニュース

食事介助のイラスト | かわいいフリー素材集 いらすとや

 

8/7 読売新聞にてある記事が掲載されました。

名古屋市西区特別養護老人ホームで、入所中の男性(当時88歳)がパンをのどに詰まらせ死亡したのは職員らが見守りを怠ったのが原因だとして、遺族が施設側に計約2960万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が7日、名古屋地裁であった。藤根康平裁判官は施設側に安全配慮義務違反を認定し、計約2490万円の支払いを命じた」

 

現場で働いている私からしたら、この判決は【かなりやばい】です。これが認められてしまうと、施設側は何もできなくなります。亡くなった方は食事自立レベルだったそう。ただ、歳を考えると確かに誤嚥してしまってもおかしくありません。しかし、そうなると高齢者は全員誤嚥のリスクがあります。入居者一人一人が完食するまで付きっ切りで介護士が対応していたら何時間経っても食事は終わりません。一回の食事に30分~1時間かかる人も大勢いますからね。ましてやこの方は食事自立レベル。このレベルの方まで付きっ切りで対応していては仕事になりません。

 

ご遺族の方の気持ちも分かりますし、いたたまれない気持ちではありますが、このケースが安全配慮義務違反として認定されるのであれば、今後介護士は更に減少するでしょう。低収入、一日中食事介助で仕事が終わらない、誤って誤嚥させたら訴えられる、誰がこんなハイリスクローリターンの仕事を好みますかね。

 

この判決を機に全国の施設は様々な施策を取るでしょう。当然、入居者全員の食事介助をマンツーマンで行うことは現実的では無い為、食事形態を変えることになるでしょう。食事自立レベルであろうが全介助レベルであろうが、流動食を選択するかもしれません。そうすれば誤嚥のリスクが減少しますからね。しかし、食事自立レベルの人は普通の食事形態を好みます。しかし、施設側は保身の為に食事形態を下げます。

 

益々入居者自身の意思が尊重されにくい状態となるでしょう。これは医療において本来はあってはならない状態です。医療は本人の意思を尊重することが鉄則です。しかしそうなると施設側は身動きが取れなくなります。

 

この記事を詳しく調べてみると。今回の件は一度パンを喉に詰まらせた既往が存在した中で起きた二度目の誤嚥だそうです。そうなると多少話は変わってきます。施設側の対応不足があったかもしれません。しかし、それでも施設で全てのインシデントを防ぐことは困難です。この件を機に、施設内で事故が発生した場合に損害賠償を請求する事案が増える可能性は高いです。

 

ただでさえ人手不足で現場が回っていない介護業界。こういった事案が表沙汰になればなるほど益々介護職員は離職していくでしょうし、目指す人も減少するでしょう。

 

施設側にも過失はあると思いますし、防ぐことができる可能性があったのかもしれませんが、同業者として頭を抱える事案でした。